忍者ブログ記事別アクセス推移 多岐川さんのアイドレス日記: 詩歌藩国SS・花火風景
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詩歌藩国SS・花火風景

 パチパチパチパチ。
 小笠原の校舎の片隅で、小さな炎の光が見えた。
 線香花火である。
「皆さん楽しそうね」
 森は、しゃがんで線香花火を見つめていた。
 茜も、隣にしゃがみ、線香花火を見ている。
「うるさいだけだ」
 茜はややすねてそう言った。
「いいんじゃない。皆さんあんなに楽しそうにしてる。…あの白い馬は可哀想だけど」
 森の視線の先には、エクウスがいた。


「蛇嫌い~」
 エクウスは泣きながら蛇花火から逃げていた。
「エクウスー。怖くない。怖くないから!」
「花火、花火。しよう。ほら、花火!」
須藤と花陵がエクウスに怖くないと示すが、エクウスはそれでも怖いらしい。
「ほらネズミ花火。怖くないよー」
 面白がったのか九音がエクウスの足元にネズミ花火を投げた。
「藩王鬼畜~!!」
「意地悪~!!」
 国民は大ブーイングである。
 エクウスは泣きながら逃げていた。
 さすがに可哀想になり、九音はエクウスを慰めに近付くが、またもいたずら心がうずく。
 エクウスはびくりとしたが、頭を撫でられて少し落ち着いた。
「ああ、からかってすまないすまない。ナイアガラの滝とかどうかな? さて……エクウス。この花火はネズミ花火という。ジャスパーとは似ても似つかないが、ネズミの名前がついているからには由来を同じくするものには違いない。と、いうことでお詫びに好きな花火をつけよう」
「僕、蛇は嫌いなんだ。噛まれたことあるから」
 素直に頭を撫でられながらエクウスは言う。
 またもエクウスをからかおうとする九音に、またも国民は大ブーイングをする。
「藩王様、お戯れがー」
「藩王も、好きな子いじめるのやめてくださいぃぃぃ!!!」
「エクウス逃げてぇぇぇぇぇぇぇ!!!! 藩王の甘い言葉に騙されちゃダメぇぇぇぇぇぇ!!!」
 その言葉にまたもエクウスは涙目になるのを見て、九音がむくれる。
「だって、馬だよ。つぶらな瞳してるんだよ!?」
「そのつぶらな瞳を涙目にしたいのかああああ!! ダメッ!ダメーッ!!!! 明日のおやつを全部生パセリにしますよ藩王!!」
 豊国がエクウスを九音から庇いながら怒る。
 九音はまたも「む~」とむくれた。

 一方。
「はう~、二人の世界?」
「うわあ、こっちも邪魔できない雰囲気に!」
 茜と森の様子をうかがう人物達がいた。
 駒地と星月である。
「森さん~……」
 鈴藤もやや涙目で、森に近づこうとした。
 駒地と星月は顔を見合わせると、ロケット花火に火をつけ始めた。
「えっ、ちょっ、待った……」
「邪魔できんから憂さ晴らしじゃあ~!!!」
 嫉妬を炎に変え、ロケット花火発射。
「ウギャア~~~~~!!!」
 鈴籐はロケット花火から逃げ回る羽目に陥った。
 それを見ていた伊能も駒地と星月に混じってロケット花火を発射し始めた。
「貴様、森さんに近付いたな? 嫉妬団の風上にもおけん!!」
「だってぇ、茜だけ幸せなんてヤダ~、俺だって幸せになりたい~」
「オノレ~!! 俺だって幸せになりたいわ~!!」
 伊能、もはや目的が鈴籐成敗になっている。
 鈴籐は必死で逃げていた。

「楽しそうねえ」
「……だから、うるさいだけだ」
「あっ、火落ちた。替えもらってこよう」
「……うん。分かった」
 茜は自分の線香花火が落ちたのを見て、頷いた。
 皆の輪に森と茜は入っていった。
 
  鈴虫が鳴いている。
  夏ももう終わりである。
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