No,892 船橋鷹大@キノウツン藩国さん発注SS
晴れた日には家族と一緒に
雲1つない青空の下の砂漠の国。
宰相府藩国の居住区に位置するバザールは大変にぎわっている。
元々は広い区画にも関わらず、そこに所狭しと店が構え、そこへと人の出入りが集中してしまうので、狭く見えてしまうのだ。
その区画を少し過ぎた場所には、区画と区画を往復するための水上バスが出ている。
水上バスは本数も多いため、その上なら比較的空いている。
「空歌、酔わないか?」
「ううん。平気」
「そうか、いやあ、ようやく座れたなあ……」
「うふふ、お疲れ様、パパ」
新しく出た水上バスに搭乗する若い家族。
家族が水上バスに乗ったのと同時に、水上バスはゆっくりと動き始めた。
家族は空いている席にとっしりと腰を下ろした。
若い父親は猫を肩に乗せつつ、両手には大量の荷物を抱えていた。家族5人+猫3匹分の買い出しは、なかなかに骨が折れる。
若い母親は胸にまだ小さな女の子を抱っこ紐で結って抱え、両手には胸に抱えている女の子よりは大きいがまだまだ小さな男の子と女の子がはぐれないよう手を繋いでいるのだから、こちらはこちらで大変だろう。
小さな男の子と女の子は水上バスが珍しいらしく、動き始めた水上バスに興味津々の様子で、席に着いた後もきょろきょろとあちこちを見ている。
「おお、歌伊も悠歌も、初めてだもんなあ、水上バスは。見てくるか?」
「うんっっ」
「あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ?」
「はーい」
金と銀の双子は、きゃっきゃと笑いながら席を立つと、手を繋いで走っていった。
「大丈夫かなあ?」
「にゃん」
「おお、アレクサンドロス、見てきてくれるのか?」
「にゃん」
「そっか、ありがとうな」
父親の肩に乗っていた猫はすとんと降り立つと、そのまま双子を追いかけていった。
父親はふう、と溜め息をついた。
「お疲れ様。鷹大君」
「いや、今は疲れてるとか、そう言う意味じゃなくって」
「え? じゃあどう言う意味?」
「うん。いや、子供達が元気で、猫も元気で、可愛い奥さんも笑っているのって、本当にいいなって思って」
父親……鷹大は微笑んだ。
それに釣られて、母親……空歌も微笑む。
「うん。いっぱいいろんな事あったもんね……」
「ああ。でも家族が笑っていられるから、大丈夫だろうなあってそう思ったんだ」
鷹大はちらりと水上バスの端を見た。
歌伊と悠歌は水上バスの下を覗きたいらしいが、身長が全く足りないので上手く下を覗く事ができない。2人の足元をアレクサンドロスが少し噛んだので子供達が振り返ると、アレクサンドロスは水上バスの2階へとトコトコ階段を昇っていった。どうも2階の展望コーナーへと連れて行く気らしい。2人は嬉しそうに猫についていった。
「うう……」
空歌の胸で眠っていた末の千歌がむずむずと鼻を動かした。
空歌はよしよしと千歌をあやした。鷹大も千歌の頭をそっと撫でると、今にも泣き出しそうだった千歌のぐずりはぴたりと止んで、またすやすやと眠り始めた。
夫婦は互いに顔を見合わせ、そして微笑んだ。
「まあ、国に帰ったらまた頑張ろうな」
「うん」
そう頷き合っていたら、双子が猫を連れて戻ってきた。
「すごかったー」
「すごかったー」
「おお、何がそんなにすごかった?」
「バスねえ。いっぱい泡出して動いてたんだよー、ねえアレク?」
「にゃーん」
「そっかあ。そりゃすごいなあ」
「うん! 泡いっぱい出てた」
歌伊と悠歌が興奮しながら、手振り身振りをしているのを、鷹大と空歌は微笑みながら聞いていた。
もうすぐ、水上バスは次の駅に停まる。
ジリジリと焼けるような日差しも、今は気にならなかった。
<了>
雲1つない青空の下の砂漠の国。
宰相府藩国の居住区に位置するバザールは大変にぎわっている。
元々は広い区画にも関わらず、そこに所狭しと店が構え、そこへと人の出入りが集中してしまうので、狭く見えてしまうのだ。
その区画を少し過ぎた場所には、区画と区画を往復するための水上バスが出ている。
水上バスは本数も多いため、その上なら比較的空いている。
「空歌、酔わないか?」
「ううん。平気」
「そうか、いやあ、ようやく座れたなあ……」
「うふふ、お疲れ様、パパ」
新しく出た水上バスに搭乗する若い家族。
家族が水上バスに乗ったのと同時に、水上バスはゆっくりと動き始めた。
家族は空いている席にとっしりと腰を下ろした。
若い父親は猫を肩に乗せつつ、両手には大量の荷物を抱えていた。家族5人+猫3匹分の買い出しは、なかなかに骨が折れる。
若い母親は胸にまだ小さな女の子を抱っこ紐で結って抱え、両手には胸に抱えている女の子よりは大きいがまだまだ小さな男の子と女の子がはぐれないよう手を繋いでいるのだから、こちらはこちらで大変だろう。
小さな男の子と女の子は水上バスが珍しいらしく、動き始めた水上バスに興味津々の様子で、席に着いた後もきょろきょろとあちこちを見ている。
「おお、歌伊も悠歌も、初めてだもんなあ、水上バスは。見てくるか?」
「うんっっ」
「あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ?」
「はーい」
金と銀の双子は、きゃっきゃと笑いながら席を立つと、手を繋いで走っていった。
「大丈夫かなあ?」
「にゃん」
「おお、アレクサンドロス、見てきてくれるのか?」
「にゃん」
「そっか、ありがとうな」
父親の肩に乗っていた猫はすとんと降り立つと、そのまま双子を追いかけていった。
父親はふう、と溜め息をついた。
「お疲れ様。鷹大君」
「いや、今は疲れてるとか、そう言う意味じゃなくって」
「え? じゃあどう言う意味?」
「うん。いや、子供達が元気で、猫も元気で、可愛い奥さんも笑っているのって、本当にいいなって思って」
父親……鷹大は微笑んだ。
それに釣られて、母親……空歌も微笑む。
「うん。いっぱいいろんな事あったもんね……」
「ああ。でも家族が笑っていられるから、大丈夫だろうなあってそう思ったんだ」
鷹大はちらりと水上バスの端を見た。
歌伊と悠歌は水上バスの下を覗きたいらしいが、身長が全く足りないので上手く下を覗く事ができない。2人の足元をアレクサンドロスが少し噛んだので子供達が振り返ると、アレクサンドロスは水上バスの2階へとトコトコ階段を昇っていった。どうも2階の展望コーナーへと連れて行く気らしい。2人は嬉しそうに猫についていった。
「うう……」
空歌の胸で眠っていた末の千歌がむずむずと鼻を動かした。
空歌はよしよしと千歌をあやした。鷹大も千歌の頭をそっと撫でると、今にも泣き出しそうだった千歌のぐずりはぴたりと止んで、またすやすやと眠り始めた。
夫婦は互いに顔を見合わせ、そして微笑んだ。
「まあ、国に帰ったらまた頑張ろうな」
「うん」
そう頷き合っていたら、双子が猫を連れて戻ってきた。
「すごかったー」
「すごかったー」
「おお、何がそんなにすごかった?」
「バスねえ。いっぱい泡出して動いてたんだよー、ねえアレク?」
「にゃーん」
「そっかあ。そりゃすごいなあ」
「うん! 泡いっぱい出てた」
歌伊と悠歌が興奮しながら、手振り身振りをしているのを、鷹大と空歌は微笑みながら聞いていた。
もうすぐ、水上バスは次の駅に停まる。
ジリジリと焼けるような日差しも、今は気にならなかった。
<了>
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