夜國涼華@海法よけ藩国さん依頼SS
特別な日にて
海法よけ藩国は、全面砂漠の国であった。
夜國涼華は大荷物を抱えて、キョロキョロと周りを見回しながら歩いた。
暑い。
森国とは思えないほどに暑かった。
木は熱を吸い取るするのだが、今は吸い取ってくれる木もなく。
「あ、暑いです……」
涼華はクラクラしながら、それでも懸命に歩いた。
久しぶりに晋太郎さんに会うのだから、おしゃれしようと思って張り切ってドレスを着てきたのに、汗で服が張り付いて、上手く砂の上を歩けない。
それでもヒールの高い靴を履いたのが幸か不幸か、砂に足を取られる事はなかった。
シャクシャクシャク。
砂の上に独特な足音が響く。
ふいに、陽炎が見えた。
え、森国で陽炎……?
涼華がありえないはずの光景に目を凝らしていると、陽炎が揺れ、そこから晋太郎が現れた。
「晋太郎さん!!」
涼華はシャシャシャシャと、砂が重い事も忘れて寄っていった。
「暑いね」
晋太郎はこの暑さも気にせず、いつもの白い服を纏っていた。
ふいに涼華を指で指した。
「え……?」
吹き出るを通り越して垂れ流れていたはずの汗が止まった。
替わりにスウーッと清涼感が自分を包んでいるように感じた。
ああ、晋太郎さんの冷却魔法だ。
「ふわぁ、ありがとうございますー。これで、晋太郎さんにだきつけます」
涼華はそう言ってにこにこ笑っていた。
晋太郎もそれを見て笑い返していた。
「あの、お誕生日、おめでとうございます。どうしてもお祝いしたくて…」
そう言ってシャシャシャと晋太郎に近寄っていったのだが。
「ありがとう」
晋太郎はトントンと避けた。
何で?
涼華は少しガーンとしたが、それはおくびに出さない事にした。
「それから、うさぎさん、ありがとうございました」
少し離れた晋太郎に向かってそう言った。
バレンタインデーにチョコを送ったお返しにもらったのは、大きなうさぎのぬいぐるみであった。
涼華はその子にクラウンと名付けて大事にしている。
「いえいえ。どういたしまして」
「すみません、このような状況で…」
そう言い、周りを見回した。
いつも踏んでいた土は少し湿っているけれど確かにここは土だと踏み締められたのに、今の地面は砂で、踏み締めようとしたら踏み抜いてしまう位に危うい。
いつも青臭い匂いがしていた気がするのに、今はサラサラした砂の埃っぽい匂いしかしない。
自分達が失ったものは、思っているよりも大きいのだ。
「すごいよね。なにやったらこうなるんだか」
「はい…一面、砂漠ですものね…」
「うん」
晋太郎は涼華と同じく視線を砂漠に向けていた。
周りは建物が砂に埋まっていた。
シュールな光景である。
建物の持ち主らしい人々はスコップで砂を掘っていた。
「植林なども行う、と言うお話も聞きますが、あたしも詳しくは携わってないもので、状況に詳しくなくて…。ネコリスさんが帰ってこれるこれない以前のお話になってしまいました」
涼華はそう言ってしゅんとしていた。
自分の力の及ばない範囲で、自分の身内が悲しむのは、やはり悲しい。
自分の無力さを思い知らされて。
「うん。まあ、僕も手伝うよ」
晋太郎は涼華を慰めるように少しだけ近づき、寄り添った。
「ありがとうございます」
涼華は少しだけ晋太郎に肩を預けた。
預けて気が付いた。
「晋太郎さんのおうちも砂に埋まってしまいましたか?」
見上げると、晋太郎は軽く首を振った。
「埋まる以前に、ばらばらだよ。あとかたもない」
そうあっさり言ってのけたのに、涼華は絶句した。
「そうでしたか…ごめんなさい、あたし…」
「ううん。いいさ。みんな同じさ」
涼華がしゅん。とすると、晋太郎は優しくそう言った。
涼華が晋太郎を見上げると、晋太郎は微笑んで、涼華の顔を覗いていた。
全部見透かされているようで、涼華は思わずぽろり……と涙をこぼした。
「素直に言うと。晋太郎さんが今どうしてるんだろうとか、すごく気になって。聞きたくて。でも、晋太郎さんが言いたくないとか聞いて欲しくないなら聞いちゃいけないって…そう思ったらぐるぐるして…」
顔が熱い。
今は冷却魔法がかかっているから砂漠のせいではないはずだけど。
涼華の顔を覗いていた晋太郎は微笑んだまま口を開いた。
「好きだよ」
「!」
涼華は晋太郎の顔をまじまじと見た。
彼の瞳の中には、ちゃんと自分が映っていた。
「あ、あたしも! 大好きです!」
涼華は我慢できず、そのまま嗚咽を上げて泣き始めた。
晋太郎はいつものように涼華の頭を撫でていた。
「あたし、晋太郎さんに、頭撫でてもらうのも好きです」
「そっか」
晋太郎は涼華をさらに撫でた。
晋太郎の撫でるリズムは心地いい。手が大きいのも、髪に手が滑るのも。
「よしよし」
ようやく晋太郎が手を離した時には、涼華も泣き止み、自然と笑みが浮かんでいた。
「情けないことに、いつも、晋太郎さんともっと逢ったり一緒にいたりするにはどうしたらいいのか、考えてしまいます」
晋太郎が手を離す瞬間、そんな言葉が自然と出た。
「ぎゅーしたりとか、嬉しいこと、伝えたり。そういうのをもっと晋太郎さんと出来るようになるには、って悩んで、それでぐるぐるしちゃって」
「うん」
告白みたいだなあ。
涼華はそう思った。
どちらが照れるかはよく分からないけれど。
対する晋太郎はきょとんとした顔で聞いていた。
「晋太郎さんのこと、何も考えずにやっちゃったら、どうしようって」
「?」
「上手く言えませんが、晋太郎さんの思いを置いてけぼりにして、自分が暴走して、それで晋太郎さんを傷付けるのが怖いです」
「大丈夫だよ」
晋太郎さん、意味分かってくれたのかなあ?
涼華はそう思って晋太郎の表情から真意を汲み取ろうとした。
晋太郎はにこにこ微笑んでいた。
……もしかすると、やっぱりよく分かってない?
涼華は何とか分かってもらおうと、涙をこらえて言葉を搾り出した。
「あたし、晋太郎さんに、真名のお話とかもしてない。本当は伝えたいけど、タイミング逃しちゃうことも」
「よしよし。まだ小さいんだから。そういうこともあるよ」
……あれ?
涼華は晋太郎をよく見た。
晋太郎は相変わらずニコニコ笑っていた。
「ぷー、こ、子供じゃないモン!」
涼華は涙もどこへやら、頬をパンパンにして脹れた。
「焦っちゃうんです…あたし…」
涼華がしゅん……と再び沈んだのを、晋太郎は「よしよし」と撫でた。
涼華は砂の上にポン、と荷物を置くと、そのまま晋太郎の懐に飛び込んだ。晋太郎がそれを軽く抱きとめた。
今日はヒールが幸いして、晋太郎に近い。
そのまま少しだけ背伸びをして、頬ずりした。
晋太郎が揺れている。
……もしかして、笑ってるの?
「あたしが焦って、晋太郎さんがいなくなっちゃうのが、怖いです…」
「大丈夫大丈夫。軽くよけるから」
!
涼華はビクリと身体をはねさせた。
晋太郎はよく分かってなさそうに、腕の中の涼華の頭を撫でていた。
「それは、どれを避けるですか!?」
「??」
晋太郎はやはり、よく分かってなさそうであった。
いや、全く分かってないのかもしれない。
涼華はどうしようと途方に暮れたが、開き直って晋太郎の首に手を回し、再度抱き付いた。
「そんな晋太郎さんも、大好きです」
「ありがとう。僕も大好きだよ」
そのまま、しばらく抱き合っていた。
/*/
折角晋太郎さんの誕生日だったのに、いっぱい愚痴言った。
その後、涼華はしょぼんとした。
子供扱いされているのにもショックだったが、それでも、まあいっかと思う事にした。
一緒にお菓子を作る約束をした。
一緒にお菓子を作って、一緒に食べて。
そして、また笑って欲しい。
クラウンをギューッとした。
彼が誕生日に見せた笑顔は、今年見た笑顔で、一番の笑顔だったのだから。
海法よけ藩国は、全面砂漠の国であった。
夜國涼華は大荷物を抱えて、キョロキョロと周りを見回しながら歩いた。
暑い。
森国とは思えないほどに暑かった。
木は熱を吸い取るするのだが、今は吸い取ってくれる木もなく。
「あ、暑いです……」
涼華はクラクラしながら、それでも懸命に歩いた。
久しぶりに晋太郎さんに会うのだから、おしゃれしようと思って張り切ってドレスを着てきたのに、汗で服が張り付いて、上手く砂の上を歩けない。
それでもヒールの高い靴を履いたのが幸か不幸か、砂に足を取られる事はなかった。
シャクシャクシャク。
砂の上に独特な足音が響く。
ふいに、陽炎が見えた。
え、森国で陽炎……?
涼華がありえないはずの光景に目を凝らしていると、陽炎が揺れ、そこから晋太郎が現れた。
「晋太郎さん!!」
涼華はシャシャシャシャと、砂が重い事も忘れて寄っていった。
「暑いね」
晋太郎はこの暑さも気にせず、いつもの白い服を纏っていた。
ふいに涼華を指で指した。
「え……?」
吹き出るを通り越して垂れ流れていたはずの汗が止まった。
替わりにスウーッと清涼感が自分を包んでいるように感じた。
ああ、晋太郎さんの冷却魔法だ。
「ふわぁ、ありがとうございますー。これで、晋太郎さんにだきつけます」
涼華はそう言ってにこにこ笑っていた。
晋太郎もそれを見て笑い返していた。
「あの、お誕生日、おめでとうございます。どうしてもお祝いしたくて…」
そう言ってシャシャシャと晋太郎に近寄っていったのだが。
「ありがとう」
晋太郎はトントンと避けた。
何で?
涼華は少しガーンとしたが、それはおくびに出さない事にした。
「それから、うさぎさん、ありがとうございました」
少し離れた晋太郎に向かってそう言った。
バレンタインデーにチョコを送ったお返しにもらったのは、大きなうさぎのぬいぐるみであった。
涼華はその子にクラウンと名付けて大事にしている。
「いえいえ。どういたしまして」
「すみません、このような状況で…」
そう言い、周りを見回した。
いつも踏んでいた土は少し湿っているけれど確かにここは土だと踏み締められたのに、今の地面は砂で、踏み締めようとしたら踏み抜いてしまう位に危うい。
いつも青臭い匂いがしていた気がするのに、今はサラサラした砂の埃っぽい匂いしかしない。
自分達が失ったものは、思っているよりも大きいのだ。
「すごいよね。なにやったらこうなるんだか」
「はい…一面、砂漠ですものね…」
「うん」
晋太郎は涼華と同じく視線を砂漠に向けていた。
周りは建物が砂に埋まっていた。
シュールな光景である。
建物の持ち主らしい人々はスコップで砂を掘っていた。
「植林なども行う、と言うお話も聞きますが、あたしも詳しくは携わってないもので、状況に詳しくなくて…。ネコリスさんが帰ってこれるこれない以前のお話になってしまいました」
涼華はそう言ってしゅんとしていた。
自分の力の及ばない範囲で、自分の身内が悲しむのは、やはり悲しい。
自分の無力さを思い知らされて。
「うん。まあ、僕も手伝うよ」
晋太郎は涼華を慰めるように少しだけ近づき、寄り添った。
「ありがとうございます」
涼華は少しだけ晋太郎に肩を預けた。
預けて気が付いた。
「晋太郎さんのおうちも砂に埋まってしまいましたか?」
見上げると、晋太郎は軽く首を振った。
「埋まる以前に、ばらばらだよ。あとかたもない」
そうあっさり言ってのけたのに、涼華は絶句した。
「そうでしたか…ごめんなさい、あたし…」
「ううん。いいさ。みんな同じさ」
涼華がしゅん。とすると、晋太郎は優しくそう言った。
涼華が晋太郎を見上げると、晋太郎は微笑んで、涼華の顔を覗いていた。
全部見透かされているようで、涼華は思わずぽろり……と涙をこぼした。
「素直に言うと。晋太郎さんが今どうしてるんだろうとか、すごく気になって。聞きたくて。でも、晋太郎さんが言いたくないとか聞いて欲しくないなら聞いちゃいけないって…そう思ったらぐるぐるして…」
顔が熱い。
今は冷却魔法がかかっているから砂漠のせいではないはずだけど。
涼華の顔を覗いていた晋太郎は微笑んだまま口を開いた。
「好きだよ」
「!」
涼華は晋太郎の顔をまじまじと見た。
彼の瞳の中には、ちゃんと自分が映っていた。
「あ、あたしも! 大好きです!」
涼華は我慢できず、そのまま嗚咽を上げて泣き始めた。
晋太郎はいつものように涼華の頭を撫でていた。
「あたし、晋太郎さんに、頭撫でてもらうのも好きです」
「そっか」
晋太郎は涼華をさらに撫でた。
晋太郎の撫でるリズムは心地いい。手が大きいのも、髪に手が滑るのも。
「よしよし」
ようやく晋太郎が手を離した時には、涼華も泣き止み、自然と笑みが浮かんでいた。
「情けないことに、いつも、晋太郎さんともっと逢ったり一緒にいたりするにはどうしたらいいのか、考えてしまいます」
晋太郎が手を離す瞬間、そんな言葉が自然と出た。
「ぎゅーしたりとか、嬉しいこと、伝えたり。そういうのをもっと晋太郎さんと出来るようになるには、って悩んで、それでぐるぐるしちゃって」
「うん」
告白みたいだなあ。
涼華はそう思った。
どちらが照れるかはよく分からないけれど。
対する晋太郎はきょとんとした顔で聞いていた。
「晋太郎さんのこと、何も考えずにやっちゃったら、どうしようって」
「?」
「上手く言えませんが、晋太郎さんの思いを置いてけぼりにして、自分が暴走して、それで晋太郎さんを傷付けるのが怖いです」
「大丈夫だよ」
晋太郎さん、意味分かってくれたのかなあ?
涼華はそう思って晋太郎の表情から真意を汲み取ろうとした。
晋太郎はにこにこ微笑んでいた。
……もしかすると、やっぱりよく分かってない?
涼華は何とか分かってもらおうと、涙をこらえて言葉を搾り出した。
「あたし、晋太郎さんに、真名のお話とかもしてない。本当は伝えたいけど、タイミング逃しちゃうことも」
「よしよし。まだ小さいんだから。そういうこともあるよ」
……あれ?
涼華は晋太郎をよく見た。
晋太郎は相変わらずニコニコ笑っていた。
「ぷー、こ、子供じゃないモン!」
涼華は涙もどこへやら、頬をパンパンにして脹れた。
「焦っちゃうんです…あたし…」
涼華がしゅん……と再び沈んだのを、晋太郎は「よしよし」と撫でた。
涼華は砂の上にポン、と荷物を置くと、そのまま晋太郎の懐に飛び込んだ。晋太郎がそれを軽く抱きとめた。
今日はヒールが幸いして、晋太郎に近い。
そのまま少しだけ背伸びをして、頬ずりした。
晋太郎が揺れている。
……もしかして、笑ってるの?
「あたしが焦って、晋太郎さんがいなくなっちゃうのが、怖いです…」
「大丈夫大丈夫。軽くよけるから」
!
涼華はビクリと身体をはねさせた。
晋太郎はよく分かってなさそうに、腕の中の涼華の頭を撫でていた。
「それは、どれを避けるですか!?」
「??」
晋太郎はやはり、よく分かってなさそうであった。
いや、全く分かってないのかもしれない。
涼華はどうしようと途方に暮れたが、開き直って晋太郎の首に手を回し、再度抱き付いた。
「そんな晋太郎さんも、大好きです」
「ありがとう。僕も大好きだよ」
そのまま、しばらく抱き合っていた。
/*/
折角晋太郎さんの誕生日だったのに、いっぱい愚痴言った。
その後、涼華はしょぼんとした。
子供扱いされているのにもショックだったが、それでも、まあいっかと思う事にした。
一緒にお菓子を作る約束をした。
一緒にお菓子を作って、一緒に食べて。
そして、また笑って欲しい。
クラウンをギューッとした。
彼が誕生日に見せた笑顔は、今年見た笑顔で、一番の笑顔だったのだから。
スポンサーサイト
この記事のトラックバックURL
http://idressnikki.blog117.fc2.com/tb.php/215-6507618f