夜國涼華@海法よけ藩国さん依頼SS
天高く雲は流れ
秋である。
空は高く、晴天。
しかし、残暑に厳しい日であった。
残暑の季節に体育祭はやってくる。
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「あっつい…日焼けがぁー」
涼華はじっとり湧き出す汗を腕でぬぐう。汗は止まる事なく出てくる。
「残暑が厳しいな…。」
亀助も額の汗を拭きながら空を仰ぐ。
他の体育祭参加面々もまだ競技が始まる前だと言うのにぐったりしている。
そして、涼華と亀助と一緒に参加している滋賀小助もまたぐったりしていた。最も、同じく一緒に参加している玖珂晋太郎は割と元気そうににこにこ笑っていたが。
「滋賀君! 冷たいスポーツドリンクあげる!!」
亀助は師匠として慕う小助にペットボトルをさっと取り出して渡した。
普段なら何か嫌味でも言う所だが、小助は珍しく素直に受け取った。
「礼は言っておく」
「雪でも食べる?」
冗談か本気か先程からにこにことプログラムを読んでいた晋太郎か声をかける。
「もうこりごりだ」
小助はぽそりと言った後、二人で笑った。
その二人を微笑ましく涼華は見ていた。
とそこでノイズ混じりのお知らせが入った。
ピンポンパンポン
『次の種目は障害物競走です。参加者の皆様は西側の入場門にお集まり下さい』
ピンポンパンポン
小助は少し嫌そうな顔をしたが、渋々と言った風に立ち上がった。
隣で亀助も元気に立ち上がった。
「今日は正々堂々、競技で戦うから、命の心配無しっ!! たぶん!」
亀助は涼華と晋太郎に少し会釈してから元気に入場門まで走っていった。その後ろを小助がだるそうについていった。
「よーい、ドン」
パーンとピストルが鳴る。
亀助は元気に走り出した。が、小助にはやる気がないらしい。亀助の後ろをトロトロ走っていた。
「滋賀君やる気0!? 漢が勝負を捨てて良いのか!! 俺は全力で戦うぞ!」
亀助は遥か後ろでトロトロ走る小助に叫ぶが、小助は半眼である。
「好きにやれ、そして夏の暑さに死ね」
既に9月ではと言うつっこみはなしである。
「暑さで死ぬほどやわじゃ無い。やる気がないなら、俺が先にゴールさせてもらう。」
亀助はそう言い、ゴールを目指してカーブを曲がり、ふと後ろを見て気がついた。
口は悪いし力は強いが病弱な小助は、残暑には勝てなかったらしい。熱中症で倒れたのだ。
「ぎゃーっ!」
観客席で亀助と小助の応援をしていた涼華が慌てて小助の元に駆け寄った。
涼華と一緒にいた晋太郎は冷静に氷を持ってきて火照った小助の身体を冷やしていた。
「亀助、ダッシュで冷えたタオルと岩手をっ」
ゴールした亀助に涼華はそう叫んだ。
「岩手っ!? 観覧席に居るか!?」
亀助は観客席を叫んで探したが、今日は岩手はいないようだった。
涼華は半べそをかきながら小助の側に座って晋太郎と一緒になって小助の身体を冷やしていた。
「ばかーばかー! 早く言いなさいよ! ギリギリまで耐えるなぁーっ 」
小助にそう怒鳴った。
小助はぐったりしていて、反論する力も残っていないように見えた。
「晋太郎さん、小助の様子はどんな感じですか? 意識あります?」
「えーと。テントに運ぼう」
晋太郎はそう言って小助を抱えた。
ぱっと走って来た亀助も心配そうに小助を運ぶのを手伝い始めた。
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テントの下でぐったりしている小助の脇と首を亀助は冷えたタオルで冷やしていた。
テントの下は若干風が通って涼しい。
今は涼華と晋太郎は次の競技に行ったので二人っきりだ。
亀助はパタパタと団扇で小助を扇ぐ。
(滋賀君、倒れる前に言えば良いのに…。まぁ人に弱味見せる奴じゃないか。)
性格の問題だもんなあ。亀助はそう思いながらパタパタ扇ぐ。
小助がうめき声を上げた。
「水……」
亀助は慌てて小助を抱き起こして側に置いていたペットボトルを口元まで持っていった。
しかし小助は自分で飲む力がないらしい。そのままペットボトルから水が零れて小助は水浸しになった。
(…口移しで飲ませたら、後で殺されるだろーなぁ。頼む! 自力で飲んでくれ!!)
ペットボトルを傾けて少しでも飲んでもらおうと小助の口に注ごうとするが、小助は自分で口を開ける力も残っていないようだ。
亀助は少し考えた後、「…くっ! 人命優先だっ!!」とペットボトルの水を口に含んで小助に口移しで飲ませようとした……。
小助の閉じていた目が急に開いて、亀助を殴りつけた。
理不尽を地で行く人物である、小助は。
「何をやってる、まったく……」
小助は半眼で亀助を睨んだ。
しかし亀助は小助が元気になって嬉しそうである。
「ぶはっ! 人殴る前に水を飲め! さあ飲め!!」
亀助は殴られた頬を押さえながらペットボトルを投げた。
小助は黙ってペットボトルを受け取って水を飲み始めた。
やれやれと亀助は一安心し、肩をすくめた所で、 パーンとピストルが鳴り、次の競技が始まった。
涼華と晋太郎が出場する二人三脚である。
「晋太郎さん、涼華がんばれにゃーっ!」
始まって亀助がエールを送り始めた途端。
小助の目が一瞬小さくなったかと思うと、亀助は小助に殴り飛ばされた。
「何故!!??」
亀助は殴り飛ばされながらそう叫ぶのであった。
本当に理不尽を地で行く人物である、小助は。
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亀助が小助の看病に悪戦苦闘している時間と同時刻。
涼華は入場門に晋太郎と並んでいた。
紐が配られ、めいめい相方と自分の脚を括り始めた。
「晋太郎さん、二人三脚は得意ですか?」
晋太郎に脚を括られながら涼華は訊く。
晋太郎が首を傾げた。
「僕? うーん。不得意だね。どうも、コンパスがあわなくて」
そう言いながら「終わった」と立ち上がった。
晋太郎の身長は180cm近くある。小柄な涼華だと見上げる位の身長差になる。
故に涼華は少し悔しそうに晋太郎を見上げた。
「晋太郎さん、身長ありますしねー…光太郎さんとなら、うまくいくかしら…」
150cm台の涼華は少ししょげるのを見てか、晋太郎がにこにこと笑った。
「まあ、ころんだりしないように、ゆっくりやろう」
「はいっ!」
涼華が嬉しそうに頷いた所で入場の合図が鳴った。
パーンとピストルが鳴り、スタートラインから走り始めた。
「行きます! 1・2・1・2」
涼華は晋太郎の背中を掴んでリズムを取る。
晋太郎は涼華とコンパスがあわないのに気を使ってか、ゆったりと脚を動かす。
「1・2・1・2」
一生懸命走っていて、ふと見上げると晋太郎がこちらの顔をじっと見ていた事に気がついた。
目線が合い、涼華は「は、はうっ」と思わず息を飲んだ。
できれば、この時間が長く続いて欲しい。
そう思ってか、ゴールに着いたのも、自分達の順位の事も、頭に入らなかった。
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