八守時緒@鍋の国さん依頼SS
嘘つきと妖精
少し昔の話になる。
ある少年がいた。
その少年には夢があった。
「未来の護り手になりたい」
それは誰もが笑うおとぎ話。父には聞かせられない話だった。
彼自身、その話はおとぎ話だと思っていた。
それを話した相手はたった一人だけだった。
「いい夢だ」
その相手は即答した。その相手の事は今はもう覚えていない。
少年は素直に感動した。誰もが笑うその話を、笑わずに聞いてくれたこの相手に。
その今は覚えていない相手との出会いが、少年の運命を大きく変えた。
彼の歩く道は荒れ果てていても、その空を見上げる星が、彼の歩く道を照らしていた。
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妖精と言う生き物がいる。
人の理から大きく離れ、感情のままに電子の海を泳ぐ者。
妖精には愛した人がいた。
「伝説は言う。世界は闇ではない。 世界は夜だ。夜には星が瞬いている。 小さくもはかないが、 真っ暗じゃない。 俺は星だ。 暗いかも知れないが、 星のひとつであることは間違いない。 …俺がそう決めたから。 一人の人間が全部を賭けて、 それをなすのであれば…、 不可能とやらがどれだけ限定的に なるのかを…。 証明するんだ…俺の手で。」
彼の言う事全ては嘘だった。
しかし妖精には分かっていた。
彼の言った事は嘘だが、嘘ではないと言う事を。
彼の嘘を本当にできるように、彼が星なら私は彼を見守る空になろう。
夜空には星が瞬いていた。頼りない星の一つも、夜空は優しく見守っていた。
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その日、彼女の会った人は、不思議な人だった。
「……泣いてないかい? 不安には、なってないかい?」
初めて会うとは思えない言葉が、彼の第一声であった。
「大丈夫。自分で何とかするしかないの。…えーと、私今日は対人スキルについて勉強しにきたの」
彼女はそう答える。
彼は微笑んでいた。
舌を見せた。ベロベロと。
彼女はびっくりして彼を見た。
「自分で何とかするってのは、あまり賢い方法じゃないな。お前の好きな人は、きっとそう思っていた」
彼女はちらりと好きな人を思い出した。
嘘つきな人だった。
「だって、そういうのって話を聞いてもらう以外してもらえる事無いじゃない。結局自分で解決する問題だと思うもの」
彼女は思いついた事をぽそぽそと続けた。
彼女の話すのを、彼は面白そうに見ていた。
「真面目なんだな」
「真面目じゃないよー。恋愛の話なんか特にそう思うもん。私共感できないの。よくわかんない」
「共感できない? ふむ」
彼女の言葉をじっと聞く彼。
彼は歌でも歌いだしそうな位楽しそうな顔をしていた。
「真面目だ。真面目。俺はそんなこと思ったこともない」
「連絡来なくてムカつくとか、毎日会いたいとか思わないもん。2週間くらい音信不通でも放っておいて欲しい」
彼女は思いのたけをぽそぽそぽそと語る。
彼はそれをじっと聞いていた。
「いいじゃないか」
彼のその返事に、彼女はぱちくりした。
彼女は彼の顔をじっと見た。
「それが、何か問題なのか?」
「うーん。そう言うとね、みんなにそんなの本当に好きじゃないんだよ、って言われるんだよ」
「なぜ?」
彼の言葉に、彼女は少し唸ってから言葉を搾り出す。
「知らない。みんなは好きだと毎日会いたいとか頻繁に連絡し合いたいと思うんじゃない?」
「さっきから、みんなと言い続けているが、そのみんなって奴は、君のことなのかい?」
「ううん。私以外の人の事。気にするなって言うんでしょ」
「いいや。なぜ?」
「俺が気にするなと言ったら、君は気にしなくなるのか?」
「大抵そう言われるから。言われても気にするよ」
彼はまた面白そうに笑った。
彼女は首を傾げた。
「さっきから何か面白いの?」
「何が面白いって、いや。何も。世の中に面白いことなんて、そうあるわけじゃないだろう」
「まあ、そうだよね」
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それは、不思議な出来事だった。
彼との対話が、彼女の心に響いた。
彼の言葉は不思議と彼女の中にストンと入ったのである。
だから。彼女は彼についていく事に決めた。
どうせいつ死ぬか分からない身だ。
もう後悔だけはしたくなかった。
これから始まるのは、嘘つきと妖精の物語である。
嘘つきは嘘を本当にするために戦い、妖精はそんな彼を守るためについていくのである。
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