黒霧@伏見藩国さん依頼SS
少女と万年筆
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あれはとても幸運な出来事だったのだろうと後に黒霧は振り返った。
手元にあるのは、万年筆。あの幸運を象徴するかのような品だ。
黒霧はこれから何を書こうと考えた。
そうだ、彼女との出会いについて書いてみるといいかもしれない。
黒霧は早速万年筆を滑らせた。実にいい書き心地である……。
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幸運に導かれ、黒霧はアリエスと出会った。
そのまま紅茶を振る舞われたのは、運がよかったとしかいいようがない。ここはセキュリティーチェックが厳しいのだから。
紅茶を口にしてみた。
味わい深い。高級なお茶なのだろうか?
黒霧が紅茶を飲んでいる正面で、アリエスも紅茶をすすっていた。
ホワイトスノーは足元で、遊びたそうに黒霧にすりよっていた。
「おいしいです」
黒霧は率直に感想を述べた。
「あら、そう?」
アリエスは笑う。
「ええ」
「そう」
彼女の笑い方は、まるで子供のようだった。邪気がない。
「ここへはどうやって?」
アリエスは手を組んでこちらを見た。
表情が実に興味深そうである。
「ホワイトスノーに案内していただいて。海辺から歩いてきたんです」
「帝國のセキュリティーレベルは、中々のレベルにあると思うけど」
「運がよかったのかも」
黒霧は笑った。
彼女が嬉しそうに笑っていると、こちらも不思議と機嫌がよくなった。
「あなたに会えたのが、何よりの証拠です」
「そうでしょうね」
アリエスは頷いた後、上を見た。
黒霧も並んで上を見た。
「まあ、いいけど。どこから来たの?」
「出身ですか? 伏見藩国、という所から来ました」
「なるほど。猫の人かと思った。なまりがあるから」
「はい。その通りです」
アリエスの問いに黒霧は頷いた。
「その前は天領で、その前は猫の国に」
「なるほど。なぜ帝國に?」
「うーん……」
黒霧は5秒ほどうなった後アリエスを見た。
「目指すものを探しているんです」
「そう……」
アリエスは急に遠くを見るような目をして、カップを見た。
彼女の横顔がとても綺麗で、黒霧は思わず見入るように彼女の横顔を見た。
その後少しだけ咳払いをし、ゆっくり彼女に話し出した。
「僕は、前は何もしていなかったんです。何をしていいのかわからなくって、何をしたいのかも、わからなかった」
「今は?」
アリエスの問いに、黒霧はにっこりと笑いかけた。
「お話を描いているです。僕。まだまだ、上手にはできないけれど。でも、今はきっと、好きなものを追いかけていると思います」
「ものを……」
アリエスは少し考えた後言った。
「私、海法って人を知ってるわ。猫だけど。面白い人よ?」
有名な避け作家の名を上げた。
「ふむふむ」
黒霧は頷いた。
「貴方が同じくらい活躍できるといいわね」
彼女はにこっと笑うのに、黒霧もつられて笑った。
「がんばります」
「うん。応援してるわ」
そして彼女は思い出したかのように言った。
「そうだ」
言った後きびすを返して別荘の方に走っていった。
黒霧はきょとんとした顔でホワイトスノーと彼女を待った。
彼女は嬉しそうな顔で息をきらして戻って来た。
手には万年筆。それを黒霧の手にポンと置いた。
「これは……?」
黒霧はアリエスと万年筆を見比べた。万年筆は上のほうが少し削れていて、立派そうなのにもったいないと思った。
「あげるわ」
アリエスはニコニコと笑った。
「それは…・・・ありがとうございます」
「どういたしまして」
黒霧はまじまじと万年筆を見た。
自分にはまだもったいないものだと思ったのだ。
「この万年筆と、これをくださったアリエスさんに見合うようなお話を書けるように、がんばります」
「うん。楽しみにしている。クロム。おぼえた」
「僕も。アリエスさん。自信作が出来たら、一番最初にあなたに見てもらうようにします」
黒霧は万年筆を握った。
きっと書き心地のよいものだろうとそう思った。
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彼女とは次会う約束をしなかった。
彼女が「できない」と答えたからだった。
それでもいい。黒霧はそう思った。
万年筆を滑らせる。ペン先から物語が溢れ出るようだった。
彼女がどこかで読めるよう、これからも物語を書こう。黒霧はそう思い、今日も物語を書き続けるのであった。
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あれはとても幸運な出来事だったのだろうと後に黒霧は振り返った。
手元にあるのは、万年筆。あの幸運を象徴するかのような品だ。
黒霧はこれから何を書こうと考えた。
そうだ、彼女との出会いについて書いてみるといいかもしれない。
黒霧は早速万年筆を滑らせた。実にいい書き心地である……。
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幸運に導かれ、黒霧はアリエスと出会った。
そのまま紅茶を振る舞われたのは、運がよかったとしかいいようがない。ここはセキュリティーチェックが厳しいのだから。
紅茶を口にしてみた。
味わい深い。高級なお茶なのだろうか?
黒霧が紅茶を飲んでいる正面で、アリエスも紅茶をすすっていた。
ホワイトスノーは足元で、遊びたそうに黒霧にすりよっていた。
「おいしいです」
黒霧は率直に感想を述べた。
「あら、そう?」
アリエスは笑う。
「ええ」
「そう」
彼女の笑い方は、まるで子供のようだった。邪気がない。
「ここへはどうやって?」
アリエスは手を組んでこちらを見た。
表情が実に興味深そうである。
「ホワイトスノーに案内していただいて。海辺から歩いてきたんです」
「帝國のセキュリティーレベルは、中々のレベルにあると思うけど」
「運がよかったのかも」
黒霧は笑った。
彼女が嬉しそうに笑っていると、こちらも不思議と機嫌がよくなった。
「あなたに会えたのが、何よりの証拠です」
「そうでしょうね」
アリエスは頷いた後、上を見た。
黒霧も並んで上を見た。
「まあ、いいけど。どこから来たの?」
「出身ですか? 伏見藩国、という所から来ました」
「なるほど。猫の人かと思った。なまりがあるから」
「はい。その通りです」
アリエスの問いに黒霧は頷いた。
「その前は天領で、その前は猫の国に」
「なるほど。なぜ帝國に?」
「うーん……」
黒霧は5秒ほどうなった後アリエスを見た。
「目指すものを探しているんです」
「そう……」
アリエスは急に遠くを見るような目をして、カップを見た。
彼女の横顔がとても綺麗で、黒霧は思わず見入るように彼女の横顔を見た。
その後少しだけ咳払いをし、ゆっくり彼女に話し出した。
「僕は、前は何もしていなかったんです。何をしていいのかわからなくって、何をしたいのかも、わからなかった」
「今は?」
アリエスの問いに、黒霧はにっこりと笑いかけた。
「お話を描いているです。僕。まだまだ、上手にはできないけれど。でも、今はきっと、好きなものを追いかけていると思います」
「ものを……」
アリエスは少し考えた後言った。
「私、海法って人を知ってるわ。猫だけど。面白い人よ?」
有名な避け作家の名を上げた。
「ふむふむ」
黒霧は頷いた。
「貴方が同じくらい活躍できるといいわね」
彼女はにこっと笑うのに、黒霧もつられて笑った。
「がんばります」
「うん。応援してるわ」
そして彼女は思い出したかのように言った。
「そうだ」
言った後きびすを返して別荘の方に走っていった。
黒霧はきょとんとした顔でホワイトスノーと彼女を待った。
彼女は嬉しそうな顔で息をきらして戻って来た。
手には万年筆。それを黒霧の手にポンと置いた。
「これは……?」
黒霧はアリエスと万年筆を見比べた。万年筆は上のほうが少し削れていて、立派そうなのにもったいないと思った。
「あげるわ」
アリエスはニコニコと笑った。
「それは…・・・ありがとうございます」
「どういたしまして」
黒霧はまじまじと万年筆を見た。
自分にはまだもったいないものだと思ったのだ。
「この万年筆と、これをくださったアリエスさんに見合うようなお話を書けるように、がんばります」
「うん。楽しみにしている。クロム。おぼえた」
「僕も。アリエスさん。自信作が出来たら、一番最初にあなたに見てもらうようにします」
黒霧は万年筆を握った。
きっと書き心地のよいものだろうとそう思った。
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彼女とは次会う約束をしなかった。
彼女が「できない」と答えたからだった。
それでもいい。黒霧はそう思った。
万年筆を滑らせる。ペン先から物語が溢れ出るようだった。
彼女がどこかで読めるよう、これからも物語を書こう。黒霧はそう思い、今日も物語を書き続けるのであった。
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