2010年09月
- 2010/09/26 那限・ソーマ=キユウ・逢真@FEGさん依頼SS
那限・ソーマ=キユウ・逢真@FEGさん依頼SS
空へ
FEG地上部。
ここは人間立ち入り禁止の領域である。
ビルと言うビルには苔が生し、蔦が這い、草がかつてはコンクリートだった地面を割って覆い尽くしている。
ビルの上は近未来都市でNW1高いビル群が建ち並んでいると言うのに、ここは全くの別世界だ。
地上部は、妖精達の楽園であった。
その妖精達の楽園に、ただ1人入る事の許された人間がいる。
那限・ソーマ=キユウ・逢真。妖精に愛された青年は、ピクシーQと一緒にこの地を歩いていた。
「Qと過ごす二回目の誕生日かぁ……。Qを助けた時には考えなかったな」
かつてヨシフキンと名乗る人物からQの詰められた瓶を買い取った事を思い出して、しみじみとするソーマ。
Qは隣でよく分からないと言うような顔で、ソーマの隣をにこにこ笑って飛んでいる。
「誕生日?」
「うん。オレ、1月8日が誕生日だったんだよ。まぁ、Qも『ソーマ=キユウ』になってから一年だし、Qも誕生日みたいなものだけどね」
「Q、いつうまれたってないよ?」
Qはにこにことソーマの周りをくるくる飛び舞いながらそう言った。
確かに、人の理と妖精の理はやや違う所にあるのかもしれない。
ソーマはQとの付き合いで、そう考えを切り替えるのに慣れていた。
「誕生日……って言うのも変だけど、おめでとう。Q」
「うんっ」
「さて。今日はどうしようか。誕生会も兼ねてQに何かしてもらおうかとか思っていたんだけど……」
「Qが?」
Qはソーマの顔の近くで首を傾げて飛んでいる。
ソーマはQと話しやすいようにそっと腕を差し出すと、Qはそこにちょこんと腰掛けた。
「うん。折角だから……とか思ったんだけど、いいかな? もっとも、考えたらQにとっても特別な日なんだし、オレも何かするべきなんだと今気がついたんだけどね」
「どんなことするの?」
「う~ん。実は決めてないんだ。
Qに何かしてもらえればオレはそれで嬉しいから、Qが決めてくれてもいいんだけど、どうする?」
ソーマが首を傾げると、Qも一緒にもう一度首を傾げる。
Qは腕から飛び立ち、くるくる回り始めた。
「Q、ダンスうまいよ?
「そういえばこの前一緒に踊ったっけ。確かに上手だった」
前に会った時、一緒に踊った事を思い出して、ソーマは微笑んだ。
「とはいえ、全く同じっていうのもな……」
Qは「?」と首を傾げながらソーマを見ている。
「Qって、他に得意なものってあるの? ダンス以外では」
「うんと」
Qは腕を組みながらソーマの周りをくるくる回った。
そして、ぽん、と手を叩いた。
「飛ぶこと?」
「飛ぶ事かぁ……確かにそうだね。オレも飛べれば空中散歩もいいんだけど。ティンカーベルみたいな妖精の燐粉でもないと駄目かな。やっぱり」
ソーマがそう言った瞬間。
Qはぽんっと手を差し出した。
ソーマの身体から、急に重力がなくなったように感じた。
「おお? 何の魔法?」
「とべるよ?」
ソーマの身体は、飛ぶと言うよりも、ぷかぷかぷかと浮き始めた。
徐々に草で覆われた地面から遠ざかっていく。
ソーマは頬を風が撫でるのを、空がほんの少し近くなったのを、素直に喜んだ。
「おー。生身で空を飛ぶって言うのも気持ちいいもんだな。Q」
しかし。
ソーマは浮かび上がったまま、身体がくるくると回転していた。
止まらないが、こういうものなんだろうか。
Qがパタパタ飛びながら浮かぶソーマの隣を飛んでいた。
「? 気分悪くならない?」
Qの言葉で、ソーマはこんなもんなのかなと思っていたのを訂正した。
「おっとととと? いや、まぁ、落ちたらどうしようくらいは考えてるけど」
くるくる回って、だんだん空を飛んで気持ちいいと言うよりも、回ったままで気持ち悪いの方が勝ってきた。
「というか、上手く止まれないんだけど、どうすれば止まれるのこれ?」
「翼があると思って、止まるといいよ」
「翼がないからその感覚は難しいんだけ、ど!」
翼のないソーマにはなかなか難しい注文である。
ソーマはQの教え通り、何とか自分の背中に翼があると想像するが、やっぱり自分の背中には翼などなく。
空飛ぶイメージが薄れたせいか、急にグイッ、と重力に引っ張られる感覚が襲ってきた。
「あ。やば」
そのまま重力に身を任せそうになった瞬間。
細っこいQの腕がソーマの襟を掴んで上に引っ張った。
「だめー」
「うお。ごめん。えーと、推力確保推力確保」
Qが必死に言うのに、ソーマは我に返った。
Qが飛んでいるイメージ、Qが飛んでいるイメージ、Qが飛んでいるイメージ……と。
必死で自分の襟を引っ張るQのイメージを膨らませたら、重力の感覚は消え、再びふんわりと浮かび始めた。
「ほぉ――……」
Qはようやくソーマの襟を離して、ソーマの前にくるっと戻ってきた。
ソーマも浮かんだまま空に引っくり返って肩で息をした。
もうちょっとで重力の力でぺっしゃんこになる所だった。
「危なかった……。えーとさ、Q。飛ぶコツって他にどんなのがある? 翼以外で」
「深く考えないこと?」
「なるほど。『あっちへ飛びたい』とか『止まりたい』とかってイメージすればいいのかな」
「言葉で思わないで」
「言葉でもなく、本当にイメージで。心で感じるって世界か」
うーん、とソーマは考えて首を捻り、気付いた。
人は首を捻る、と言葉でイメージをしなくても首を捻る事はできる。
歩く。イメージ。走る。イメージ。止まる。イメージ……。
反射的に覚えたものは、言葉に囚われなくても普通にできる。
でも飛ぶ事を言葉で思わないでイメージするのはなあ……。ついさっきまで飛んだ事なんてなかったのに……。
ふと、Qが飛ぶ様が目に入った。
Qはごく自然に空を謳歌している。
……何も考えないで飛んでみるか。ソーマはそう思い、身体に身を任せるまま、あっちこっちに身を任せてどうなるかを感覚で試し始めていった。
あっちの方に身体を少し傾ければ、イメージした通りに飛んでいくし、止まるイメージをして足を止めればそのままピタリと止まる。
少しずつ、身体を空に馴らしていった。
「うん。ソーマ、えらいえらい」
「ありがとう。
Qの後をついていくイメージならもうちょっと上手くいくかな?
空が飛べたらQと一緒に飛びたいとは前々から思っていたし」
Qはきょとん。とした後、いつもの優しい笑顔になった。
「うん」
Qは空へ。空へと飛び始めた。
ソーマはQが飛ぶのを見て、瞼の裏にしっかりと焼き付けた。
Qが空を飛ぶイメージ。
それを浮かべて飛ぶと、不思議と上手く飛べる。そんな気がしたのだ。
大地を蹴るイメージをする。
地面に足は着いてないけれど、確かに蹴ったような気がした。そのままポンと、Qの隣を飛び始めた。
空からさんさんと光が降り注ぐ中。
妖精と妖精に愛されたものは、空をのんびりと泳ぎ始めたのだった。
<了>
FEG地上部。
ここは人間立ち入り禁止の領域である。
ビルと言うビルには苔が生し、蔦が這い、草がかつてはコンクリートだった地面を割って覆い尽くしている。
ビルの上は近未来都市でNW1高いビル群が建ち並んでいると言うのに、ここは全くの別世界だ。
地上部は、妖精達の楽園であった。
その妖精達の楽園に、ただ1人入る事の許された人間がいる。
那限・ソーマ=キユウ・逢真。妖精に愛された青年は、ピクシーQと一緒にこの地を歩いていた。
「Qと過ごす二回目の誕生日かぁ……。Qを助けた時には考えなかったな」
かつてヨシフキンと名乗る人物からQの詰められた瓶を買い取った事を思い出して、しみじみとするソーマ。
Qは隣でよく分からないと言うような顔で、ソーマの隣をにこにこ笑って飛んでいる。
「誕生日?」
「うん。オレ、1月8日が誕生日だったんだよ。まぁ、Qも『ソーマ=キユウ』になってから一年だし、Qも誕生日みたいなものだけどね」
「Q、いつうまれたってないよ?」
Qはにこにことソーマの周りをくるくる飛び舞いながらそう言った。
確かに、人の理と妖精の理はやや違う所にあるのかもしれない。
ソーマはQとの付き合いで、そう考えを切り替えるのに慣れていた。
「誕生日……って言うのも変だけど、おめでとう。Q」
「うんっ」
「さて。今日はどうしようか。誕生会も兼ねてQに何かしてもらおうかとか思っていたんだけど……」
「Qが?」
Qはソーマの顔の近くで首を傾げて飛んでいる。
ソーマはQと話しやすいようにそっと腕を差し出すと、Qはそこにちょこんと腰掛けた。
「うん。折角だから……とか思ったんだけど、いいかな? もっとも、考えたらQにとっても特別な日なんだし、オレも何かするべきなんだと今気がついたんだけどね」
「どんなことするの?」
「う~ん。実は決めてないんだ。
Qに何かしてもらえればオレはそれで嬉しいから、Qが決めてくれてもいいんだけど、どうする?」
ソーマが首を傾げると、Qも一緒にもう一度首を傾げる。
Qは腕から飛び立ち、くるくる回り始めた。
「Q、ダンスうまいよ?
「そういえばこの前一緒に踊ったっけ。確かに上手だった」
前に会った時、一緒に踊った事を思い出して、ソーマは微笑んだ。
「とはいえ、全く同じっていうのもな……」
Qは「?」と首を傾げながらソーマを見ている。
「Qって、他に得意なものってあるの? ダンス以外では」
「うんと」
Qは腕を組みながらソーマの周りをくるくる回った。
そして、ぽん、と手を叩いた。
「飛ぶこと?」
「飛ぶ事かぁ……確かにそうだね。オレも飛べれば空中散歩もいいんだけど。ティンカーベルみたいな妖精の燐粉でもないと駄目かな。やっぱり」
ソーマがそう言った瞬間。
Qはぽんっと手を差し出した。
ソーマの身体から、急に重力がなくなったように感じた。
「おお? 何の魔法?」
「とべるよ?」
ソーマの身体は、飛ぶと言うよりも、ぷかぷかぷかと浮き始めた。
徐々に草で覆われた地面から遠ざかっていく。
ソーマは頬を風が撫でるのを、空がほんの少し近くなったのを、素直に喜んだ。
「おー。生身で空を飛ぶって言うのも気持ちいいもんだな。Q」
しかし。
ソーマは浮かび上がったまま、身体がくるくると回転していた。
止まらないが、こういうものなんだろうか。
Qがパタパタ飛びながら浮かぶソーマの隣を飛んでいた。
「? 気分悪くならない?」
Qの言葉で、ソーマはこんなもんなのかなと思っていたのを訂正した。
「おっとととと? いや、まぁ、落ちたらどうしようくらいは考えてるけど」
くるくる回って、だんだん空を飛んで気持ちいいと言うよりも、回ったままで気持ち悪いの方が勝ってきた。
「というか、上手く止まれないんだけど、どうすれば止まれるのこれ?」
「翼があると思って、止まるといいよ」
「翼がないからその感覚は難しいんだけ、ど!」
翼のないソーマにはなかなか難しい注文である。
ソーマはQの教え通り、何とか自分の背中に翼があると想像するが、やっぱり自分の背中には翼などなく。
空飛ぶイメージが薄れたせいか、急にグイッ、と重力に引っ張られる感覚が襲ってきた。
「あ。やば」
そのまま重力に身を任せそうになった瞬間。
細っこいQの腕がソーマの襟を掴んで上に引っ張った。
「だめー」
「うお。ごめん。えーと、推力確保推力確保」
Qが必死に言うのに、ソーマは我に返った。
Qが飛んでいるイメージ、Qが飛んでいるイメージ、Qが飛んでいるイメージ……と。
必死で自分の襟を引っ張るQのイメージを膨らませたら、重力の感覚は消え、再びふんわりと浮かび始めた。
「ほぉ――……」
Qはようやくソーマの襟を離して、ソーマの前にくるっと戻ってきた。
ソーマも浮かんだまま空に引っくり返って肩で息をした。
もうちょっとで重力の力でぺっしゃんこになる所だった。
「危なかった……。えーとさ、Q。飛ぶコツって他にどんなのがある? 翼以外で」
「深く考えないこと?」
「なるほど。『あっちへ飛びたい』とか『止まりたい』とかってイメージすればいいのかな」
「言葉で思わないで」
「言葉でもなく、本当にイメージで。心で感じるって世界か」
うーん、とソーマは考えて首を捻り、気付いた。
人は首を捻る、と言葉でイメージをしなくても首を捻る事はできる。
歩く。イメージ。走る。イメージ。止まる。イメージ……。
反射的に覚えたものは、言葉に囚われなくても普通にできる。
でも飛ぶ事を言葉で思わないでイメージするのはなあ……。ついさっきまで飛んだ事なんてなかったのに……。
ふと、Qが飛ぶ様が目に入った。
Qはごく自然に空を謳歌している。
……何も考えないで飛んでみるか。ソーマはそう思い、身体に身を任せるまま、あっちこっちに身を任せてどうなるかを感覚で試し始めていった。
あっちの方に身体を少し傾ければ、イメージした通りに飛んでいくし、止まるイメージをして足を止めればそのままピタリと止まる。
少しずつ、身体を空に馴らしていった。
「うん。ソーマ、えらいえらい」
「ありがとう。
Qの後をついていくイメージならもうちょっと上手くいくかな?
空が飛べたらQと一緒に飛びたいとは前々から思っていたし」
Qはきょとん。とした後、いつもの優しい笑顔になった。
「うん」
Qは空へ。空へと飛び始めた。
ソーマはQが飛ぶのを見て、瞼の裏にしっかりと焼き付けた。
Qが空を飛ぶイメージ。
それを浮かべて飛ぶと、不思議と上手く飛べる。そんな気がしたのだ。
大地を蹴るイメージをする。
地面に足は着いてないけれど、確かに蹴ったような気がした。そのままポンと、Qの隣を飛び始めた。
空からさんさんと光が降り注ぐ中。
妖精と妖精に愛されたものは、空をのんびりと泳ぎ始めたのだった。
<了>
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