2010年03月16日
- 2010/03/16 鈴藤瑞樹@詩歌藩国さん依頼SS
鈴藤瑞樹@詩歌藩国さん依頼SS
3年目のクリスマス
12月にしてはやや暖かい宰相府藩国。
あちこちで楽しく陽気なメロディーが流れる宰相府藩国のイルミネーションの下を不機嫌に歩く小さな姿があった。
カレン・オレンジピール。
元々はNWに歴史保安警察の外交使節として訪れていたはずなのだが、いつの間にやらNWに住む事となっていた。
まあ、住む事になったのはどちらでも構わないのだが。
この時期。何故か男女が一緒に寄り添う姿がやたらと目に付く。
カレンは普段は目を瞑っているのだが、時々は目を開けないと転んでしまうので、目を細めて開けると、目の端でいちゃいちゃ。開けると、目の端でいちゃいちゃ。
カレンはいらいら、と何故か自分のこめかみの血管が浮き上がるのを感じていた。
何故そんなに不機嫌になるのかは分からない。
強いて言うならば、ハリセンを振るいたい。
ハリセンでどつき回したい。
しかし、今はミソッカスもミソッカス2号もここにはいないのだ。
何故自分がハリセンを振るいたい時にいないのか。
カレンは自身の浮き上がった血管を指で弾いた。
ふと、何やら急に寒くなったような気がして、空に意識を集中させた。
空が震えている。鼓膜がぶるぶると震えているのは、は帝國最強を誇る無人戦闘機が風を切って走って行くせいだと気が付いた。
カレンは薄目を開けて空を見上げたら、何かが射出されるのが見えた。
それは、カレンに狙い打ちしたかのように、ストン。と何かをよこした。
目を開けて見てみると「カレン・オレンジピール様へ」と言うカードが付いている。
「何でしょうか?」
簡素な包みをガサガサ開いたら、そこにあったのは毛糸の束だった。
毛糸が絡まって布になっている。
カレンは首を捻った。
一体これは何に使うんだろうか。
カレンが首を傾げていると、カードの後ろにメッセージが書いてある事に気が付いた。
カレンはカードをめくってメッセージを読み始めた。
『メリークリスマス。お元気ですか?
せっかくのクリスマスですので、プレゼントを用意してみました。
マフラーです。鈴藤が頑張ってつくったですよ。
きっと似合うと思うので、身に着けてもらえると嬉しいです。
ちなみにマフラーというのは首に巻いて保温したり、おしゃれしたりするためのものです。もちろん博識なカレンさんはご存知だと思われますが、念のため。
えっと、それとー……大好きですっ』
カレンはピキッと血管がさらに浮き出るのを感じた。
こんな文字の羅列で誤魔化して! 誤魔化して!
もし昔のカレンだったら癇癪を起こしてビリビリと破り捨てていたかもしれないが、さすがにカレンも少しだけ、本当に少しだけ成長しているので、何とか堪えた。
……と、そこで無人戦闘機が何かもう1つ射出していったのに気が付いた。
ひらひらと、紙1枚。
カレンはたし、とその1枚を受け取った。
目を開き、その紙を読んだ。
………。
……………。
…………………。
……………………グシャリ。
紙に皺が寄った。
「……ふふふ、ふふふふふ、ふふふふふふふふふふ」
周りを歩くカップルが怪訝な顔で見ているのを全く無視して、カレンは笑っていた。
そう。満面の笑みで。
カレンの手が光り始めた。
<転送用意。セクストン。転送>
手には、ハリセン型ブラスターが収まった。
そのままカレンは走り始めた。
このミソッカス。このミソッカス。このミソッカス。このミソッカス。
カレンの勢いは、走る事で砂煙のような雪煙のような煙を上げ、その煙を見てカップル達は一斉に彼女に道を開けた。
カレンは、道を真っ直ぐに走っていった。
/*/
「はあ……」
詩歌藩国。
鈴藤瑞樹は溜め息をついた。
今日はすこぶるいい天気。冬にしては温かく、溜め息をついても息が白くならない事がそれを表わしていた。
本当なら、今日で3年目のクリスマスである。
カレンと出会ったのは、倍率何倍にも膨れ上がったクリスマスイベントで偶然当選し、クリスマス前にあったある騒動で動いていたカレンがどんな人か知らないから会ってみようと言う、本当に偶然が偶然を呼んだものだった。
「でも、偶然でもそれが重なれば、偶然じゃないよなあ……」
詩歌藩国に滞在する吟遊詩人のような事を思わず呟いてみる。
その3年目のクリスマスだが、カレンはまだ入院していた。
現在は彼女は宰相府藩国にいるはずだ。
この前に会いに行き、彼女の元気な姿を確認してきた。それ以降は時間を作っては会いに行っているが。
「クリスマス、プレゼントは贈ったけど、届いたかなあ……」
贈ったのはマフラーだった。
水着でマフラーである。水着でマフラーである。大事な事は2回言いました。
彼女のその出で立ちをしているのを想像するだけで……。
……あれ?
カレンさんが好き過ぎるあまりに幻覚を見ているのだろうか?
気のせいか、今いるはずのないカレンさんが、水着にマフラーを付けて、ハリセンを持ってこっちに煙を出して走ってきているような気がするが……?
「このミソッカスゥゥゥ~!!!!」
「ヘブゥゥゥ!!??」
スッパ――――――ンッッッ!!!
ハリセンが鈴藤の頭にカッチリと入り、鈴藤を一気に地面に叩き付けた。
鈴藤は、冷たい詩歌の地面に倒れ伏せた。
って。
「幻覚じゃない!?」
思わずガバリと起き上がる鈴藤。
その様子をカレンはハリセンをタシタシと手で叩きながら見下ろしている。
「何を言っているですか。私がいるのが幻覚だと思いたいほど嫌ですか」
「そんな訳ないじゃないですか! カレンさんー!!」
「とうっ!」
「ヘブシッ!」
カレンとの感動の再会に両手を広げる鈴藤に、容赦なくハリセンを浴びせるカレン。
しかし気のせいか鈴藤は幸せそうである。
「何ですか! 会いに来ないと思ったらこんなもの送り付けて来て!!」
カレンはとうっと鈴藤がプレゼントと一緒に贈ったメッセージカードを見せ付ける。
「ええっ……駄目でしたか?」」
「駄目に決まっているじゃないですか!! こんな活字では私は誤魔化せませんよ!?」
「はい……すみません」
鈴藤が肩を落としてしょぼくれるのをカレンは溜め息をついて続けた。
「プレゼントなら直接、手渡しで持って来て下さい。それなら嬉しくない事もないです」
「本当ですか!?」
「しつこいのは却下です」
「えっと……マフラー、付けてくれていますよね。はは。俺が巻き直していいですか?」
「……いいですよ」
「はい、ではー」
鈴藤はそのまま起き上がって、カレンのマフラーをいそいそと外し、再度巻き直した。
くるくると。
「……今日で、3年目なんですよ」
「何がですか?」
「俺とカレンさんが出会ってからです」
「まだそれだけしか経っていなかったんですか」
「えー、俺にとってはものすごく長い時間ですよ!」
「そんなに長いと思うなら、私に会いに来たらいいです」
「えっ?」
「「時間ぜんぜん足りない」って言ってたじゃないですか」
「……ええっと」
鈴藤がマフラーの先を持って途方に暮れている間に、カレンはズイッと皺くちゃになった紙を鈴藤の顔に押し付けてきた。
「おぶっ! ………ええっと、これは……」
「知りません。戦闘機が射出していきました」
「……ははは、やっぱり全部読みましたか?」
「読みましたよ。失礼です。まるで私が変態みたいじゃないですか」
「あわわわわ、すみません、すみません、ごめんなさい」
「……本当はこれ読んですぐハリセンで殴ってやろうと思いましたが、許します」
「……えっ?」
「その代わり、もっと会いに来なさい」
「はっ、はい! 頑張ります! カレンさん!!」
そのまま鈴藤はカレンに抱き付いた。
カレンはもう1度鈴藤を殴ってやろうか、とも思ったが。今はその言葉に満足して黙っている事にした。
カレンは持っていた皺くちゃの紙をそのままポケットに突っ込んだ。
内容は「のろけ大会男性部門優秀賞」と書いてあるが、それ以上突っ込むのは野暮と言うものだろう。
Merry Christmas
&
Happy New Year !!
<了>
12月にしてはやや暖かい宰相府藩国。
あちこちで楽しく陽気なメロディーが流れる宰相府藩国のイルミネーションの下を不機嫌に歩く小さな姿があった。
カレン・オレンジピール。
元々はNWに歴史保安警察の外交使節として訪れていたはずなのだが、いつの間にやらNWに住む事となっていた。
まあ、住む事になったのはどちらでも構わないのだが。
この時期。何故か男女が一緒に寄り添う姿がやたらと目に付く。
カレンは普段は目を瞑っているのだが、時々は目を開けないと転んでしまうので、目を細めて開けると、目の端でいちゃいちゃ。開けると、目の端でいちゃいちゃ。
カレンはいらいら、と何故か自分のこめかみの血管が浮き上がるのを感じていた。
何故そんなに不機嫌になるのかは分からない。
強いて言うならば、ハリセンを振るいたい。
ハリセンでどつき回したい。
しかし、今はミソッカスもミソッカス2号もここにはいないのだ。
何故自分がハリセンを振るいたい時にいないのか。
カレンは自身の浮き上がった血管を指で弾いた。
ふと、何やら急に寒くなったような気がして、空に意識を集中させた。
空が震えている。鼓膜がぶるぶると震えているのは、は帝國最強を誇る無人戦闘機が風を切って走って行くせいだと気が付いた。
カレンは薄目を開けて空を見上げたら、何かが射出されるのが見えた。
それは、カレンに狙い打ちしたかのように、ストン。と何かをよこした。
目を開けて見てみると「カレン・オレンジピール様へ」と言うカードが付いている。
「何でしょうか?」
簡素な包みをガサガサ開いたら、そこにあったのは毛糸の束だった。
毛糸が絡まって布になっている。
カレンは首を捻った。
一体これは何に使うんだろうか。
カレンが首を傾げていると、カードの後ろにメッセージが書いてある事に気が付いた。
カレンはカードをめくってメッセージを読み始めた。
『メリークリスマス。お元気ですか?
せっかくのクリスマスですので、プレゼントを用意してみました。
マフラーです。鈴藤が頑張ってつくったですよ。
きっと似合うと思うので、身に着けてもらえると嬉しいです。
ちなみにマフラーというのは首に巻いて保温したり、おしゃれしたりするためのものです。もちろん博識なカレンさんはご存知だと思われますが、念のため。
えっと、それとー……大好きですっ』
カレンはピキッと血管がさらに浮き出るのを感じた。
こんな文字の羅列で誤魔化して! 誤魔化して!
もし昔のカレンだったら癇癪を起こしてビリビリと破り捨てていたかもしれないが、さすがにカレンも少しだけ、本当に少しだけ成長しているので、何とか堪えた。
……と、そこで無人戦闘機が何かもう1つ射出していったのに気が付いた。
ひらひらと、紙1枚。
カレンはたし、とその1枚を受け取った。
目を開き、その紙を読んだ。
………。
……………。
…………………。
……………………グシャリ。
紙に皺が寄った。
「……ふふふ、ふふふふふ、ふふふふふふふふふふ」
周りを歩くカップルが怪訝な顔で見ているのを全く無視して、カレンは笑っていた。
そう。満面の笑みで。
カレンの手が光り始めた。
<転送用意。セクストン。転送>
手には、ハリセン型ブラスターが収まった。
そのままカレンは走り始めた。
このミソッカス。このミソッカス。このミソッカス。このミソッカス。
カレンの勢いは、走る事で砂煙のような雪煙のような煙を上げ、その煙を見てカップル達は一斉に彼女に道を開けた。
カレンは、道を真っ直ぐに走っていった。
/*/
「はあ……」
詩歌藩国。
鈴藤瑞樹は溜め息をついた。
今日はすこぶるいい天気。冬にしては温かく、溜め息をついても息が白くならない事がそれを表わしていた。
本当なら、今日で3年目のクリスマスである。
カレンと出会ったのは、倍率何倍にも膨れ上がったクリスマスイベントで偶然当選し、クリスマス前にあったある騒動で動いていたカレンがどんな人か知らないから会ってみようと言う、本当に偶然が偶然を呼んだものだった。
「でも、偶然でもそれが重なれば、偶然じゃないよなあ……」
詩歌藩国に滞在する吟遊詩人のような事を思わず呟いてみる。
その3年目のクリスマスだが、カレンはまだ入院していた。
現在は彼女は宰相府藩国にいるはずだ。
この前に会いに行き、彼女の元気な姿を確認してきた。それ以降は時間を作っては会いに行っているが。
「クリスマス、プレゼントは贈ったけど、届いたかなあ……」
贈ったのはマフラーだった。
水着でマフラーである。水着でマフラーである。大事な事は2回言いました。
彼女のその出で立ちをしているのを想像するだけで……。
……あれ?
カレンさんが好き過ぎるあまりに幻覚を見ているのだろうか?
気のせいか、今いるはずのないカレンさんが、水着にマフラーを付けて、ハリセンを持ってこっちに煙を出して走ってきているような気がするが……?
「このミソッカスゥゥゥ~!!!!」
「ヘブゥゥゥ!!??」
スッパ――――――ンッッッ!!!
ハリセンが鈴藤の頭にカッチリと入り、鈴藤を一気に地面に叩き付けた。
鈴藤は、冷たい詩歌の地面に倒れ伏せた。
って。
「幻覚じゃない!?」
思わずガバリと起き上がる鈴藤。
その様子をカレンはハリセンをタシタシと手で叩きながら見下ろしている。
「何を言っているですか。私がいるのが幻覚だと思いたいほど嫌ですか」
「そんな訳ないじゃないですか! カレンさんー!!」
「とうっ!」
「ヘブシッ!」
カレンとの感動の再会に両手を広げる鈴藤に、容赦なくハリセンを浴びせるカレン。
しかし気のせいか鈴藤は幸せそうである。
「何ですか! 会いに来ないと思ったらこんなもの送り付けて来て!!」
カレンはとうっと鈴藤がプレゼントと一緒に贈ったメッセージカードを見せ付ける。
「ええっ……駄目でしたか?」」
「駄目に決まっているじゃないですか!! こんな活字では私は誤魔化せませんよ!?」
「はい……すみません」
鈴藤が肩を落としてしょぼくれるのをカレンは溜め息をついて続けた。
「プレゼントなら直接、手渡しで持って来て下さい。それなら嬉しくない事もないです」
「本当ですか!?」
「しつこいのは却下です」
「えっと……マフラー、付けてくれていますよね。はは。俺が巻き直していいですか?」
「……いいですよ」
「はい、ではー」
鈴藤はそのまま起き上がって、カレンのマフラーをいそいそと外し、再度巻き直した。
くるくると。
「……今日で、3年目なんですよ」
「何がですか?」
「俺とカレンさんが出会ってからです」
「まだそれだけしか経っていなかったんですか」
「えー、俺にとってはものすごく長い時間ですよ!」
「そんなに長いと思うなら、私に会いに来たらいいです」
「えっ?」
「「時間ぜんぜん足りない」って言ってたじゃないですか」
「……ええっと」
鈴藤がマフラーの先を持って途方に暮れている間に、カレンはズイッと皺くちゃになった紙を鈴藤の顔に押し付けてきた。
「おぶっ! ………ええっと、これは……」
「知りません。戦闘機が射出していきました」
「……ははは、やっぱり全部読みましたか?」
「読みましたよ。失礼です。まるで私が変態みたいじゃないですか」
「あわわわわ、すみません、すみません、ごめんなさい」
「……本当はこれ読んですぐハリセンで殴ってやろうと思いましたが、許します」
「……えっ?」
「その代わり、もっと会いに来なさい」
「はっ、はい! 頑張ります! カレンさん!!」
そのまま鈴藤はカレンに抱き付いた。
カレンはもう1度鈴藤を殴ってやろうか、とも思ったが。今はその言葉に満足して黙っている事にした。
カレンは持っていた皺くちゃの紙をそのままポケットに突っ込んだ。
内容は「のろけ大会男性部門優秀賞」と書いてあるが、それ以上突っ込むのは野暮と言うものだろう。
Merry Christmas
&
Happy New Year !!
<了>
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