忍者ブログ記事別アクセス推移 多岐川さんのアイドレス日記: 2008年08月
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2008年08月

  1. 2008/08/17 ビデオレター
  2. 2008/08/16 吾妻 勲@星鋼京さん依頼SS
  3. 2008/08/08 日向美弥@紅葉国さん依頼SS

ビデオレター

ショウ君へ。
今度友達の芹沢と広島明乃ちゃんと言う子を呼んで共和国環状線を見に行こうと思ってるのですが、最近世情が不安定です。一応用心はするつもりだけど、あいにく私達は全く戦う事ができません。女の子ばっかりの所悪いけれど、ボディーガードとしてついてきてもらえないでしょうか? よろしくお願いします。

追伸、その時にショウ君に相談したい事があります。できればその話も聞いてくれると嬉しいなあと思います。
追伸2、そろそろ名前呼んで欲しいなあと思うんだけれど駄目ですか?
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吾妻 勲@星鋼京さん依頼SS


 雨乞い


 その日、里美は頼まれた。
「里美ちゃん、最近かんかん照りだからねえ」
「ああ、雨乞いですね、分かりました」
 里美は胸を叩いて頷いた。
 里美はとことんいい人である。人がいいのではなく、彼女はいい人の部類であろう。
 いつものように山を登っていく。
 山からはぐるりと父島を見渡せる。そこからなら雨も島全体に行き渡るだろうと里美は思うのである。
 しばらく歩いていた時、声が聞こえた。


「あ、あれ? 里美さーん!!」
 知っている声である。
 里美は降り返った。
 声が近付いてきた。
「はーい」
「! 里美さん! ぼ、僕です! 吾妻です!」
 その声は吾妻のものだった。
 あら、吾妻さん。
 里美は嬉しそうに近付いていった。
「あー。吾妻さん!」
「はー…、こ、こんにちわ…、お久し振りです!」
 心なしか、吾妻は頬が蒸気している気がする。
 今日は本当にかんかん照りだからかなと、里美はそう納得した。
「どうなすったんですか?」
「い、いえ、ちょっと走ったら…息があがっちゃって…はは」
 吾妻はにこにこ笑って答える。


 吾妻は、何と言うかいい人だ。
 いい人で不思議な人だなあと言うのが里美の中の印象である。
「観光、ですか?」
「え、えー…、そ、そうです。久々の休暇が出たもので!」
 吾妻が言うのに里美は頷く。
 本土からはここも遠い。来るのは大変だったんだろうなあと思った。
「たしかに1週間かかりますものね。ホテルとかなら、あっちですよ?」
 里美の言葉に軽く吾妻が首を振る。
「里美さんの姿が見えたんで、ちょっと来てみたんですよ」
「嬉しいです」
 里美はにっこりと笑った。
「目立つのも、好きになれるかもしれませんね」
 里美は自分の目立つ背丈を気にしている。それでも、それで気付いて見つけてくれたのはちょっぴり嬉しかった。
「はは。それにしても、こんな所で何を?」
「それが、久しぶりに頼まれてしまいまして」
「頼まれ事…ですか。よろしかったら、僕にお手伝いをさせて頂けませんか?」
 そう聞いて里美は顔をポンっと真っ赤にする。
「え、いや。でも。ええ?」
 手をパタパタさせる。
 どういう風にすればいいのかが分からないらしい。
「ご遠慮なさらず。休暇も過ぎればヒマでしかありませんから」
 吾妻がにこやかに言うので、里美は余計に困った。
 別に見られて減るものではあるまいが、人にそんなに見せた事はないし、その、恥ずかしい。
 里美はぽっぽと茹った顔に手を当てて吾妻を見た。
 吾妻はにこにこしながら里美を見ていたが、里美の動揺が伝染した。
「あ、いえ。でもあんまり見せられるものでは」
「え、えーと…、ちょ、ちょっとまって下さい? その…何かお恥ずかしい事なんですか?」
 吾妻もぽっぽと顔から湯気を出す。
 里美も顔を赤らめ、もじもじし出す。
「……りです」
 里美はもじもじしながらぽつんと言う。
「…え、あの…すみません…失礼でなければ、もう一度お願いできますか?」
「踊りです……ダンス……」
 吾妻の問いに、里美は搾り出すような声を出して、そう答える。
 吾妻はようやく合点がいったような顔をして、笑った。
「ダンス…。あぁ、ダンスですか!」
「あ、でも全然我流でたいしたことなくて!」
 里美はパタパタと手を振って答えるが、吾妻はにっこりと笑った。
「いや、それは是非拝見したいです。お願い出来ませんか? 出きる事ならご一緒に…な、なんて!」
 吾妻は優しくそう言うと、里美はもじもじしながら、上目遣いで吾妻を見た。
 吾妻はそんな里美を見て、少し照れた。
「いきます?」
「い、良いんですか? それはもう、里美さんがよろしいなら是非!」
 吾妻が嬉しそうに答えると、里美はこくんと頷いた。
 こうして、二人は山を登っていった。


 父島をぐるりと見渡せるそこは、天気もかんかん照りで、太陽が近いように感じた。
 肌をじりじりと焼いていくように日差しが強い。
「ここ、ですけど」
 里美と吾妻はそこに立っている。
「…うわぁ…良い景色ですね! ここで、ダンスをなさるんですか?」
「はい。あの……ほんとに見て…?」
 里美はおずおずと尋ねた。
「ええ…あの、里美さんがお嫌でなければ…ですけど」
 吾妻の答えに里美はふっと微笑んだ後、表情を消した。

 空を見上げる。
 遠く遠く高い空を。
 その空を抱き上げるかのように、両手を伸ばした。
 歌が始まった。
 里美の声量は豊かだ。その豊かな声に、森が震えた。
 里美は歌を歌いながら足踏みをする。
 どんどん、ぱ。どんどん、ぱ。
 森はざわめき、鳥の鳴き声が響く。
 彼女の足踏みに答えるかのように音がこだまする。その音は何万倍もの規模で。
 
 吾妻はその様に見惚れていた。
 里美は髪を振り乱し、頭を振る。
 彼女の揺れるリズムに合わせ、大地が震える。
 彼女は、まるで父島の中心にいるように、吾妻には感じられた。
 ふいに叫び声が聞こえた。
 里美である。
 彼女の叫び声は地面を震わし、その震動は吾妻の腹にも伝わってくる。
 彼女の汗が散る。
 その様はさしずめ巫女が儀式を行うようで美しい。

 ふいに空が曇り出してきた。
「…空が…」
 吾妻が空を見上げるのと同時に、里美は両手を広げた。
「もう一度だ」
 里美は見える範囲のもの全てにそう言った。
 里美の歌う歌の曲調が変わった。
 力強い歌声から、優しい歌声に。
 里美は吾妻を見た。切なそうに。
「…! 里美さん!」
 吾妻は里美に近付きたかったが、これは儀式なのだろう。彼女の近くに近付く事はできない。
 里美はなおも空に向かい歌を捧げた。
 吾妻は思わず、彼女の歌に合わせて歌を歌い始めた。

 ぽつり

 額に落ちて来た水滴に、吾妻は思わず空を見上げた。
 天からの贈り物。空から恵みの雨が父島全土に降り注いでいた。
 里美は一仕事終えたような顔で微笑んだ。
「…里美さん…?」
 吾妻は微笑む里美の元に駆け出していた。
 濡れた髪を頬に貼りつけ、里美は笑っている。
「ありがとうございました……本当にてつだってくれて」
 彼女は、かすれた声でそう言いながら、倒れた。


「里美さんは優しいなあ」
 吾妻は里美を背負って山を下りた。
 大柄な彼女を背負うのは楽じゃないが、彼女の仕事を見ていたのだから彼女を背負う位安いものだと思った。
 彼女の歌が、今でも自分の中に残っている。
 あれだけ歌って踊って、雨を降らせるのか。
 自分のためじゃなく、誰かのために踊る彼女。
 また一つ、彼女の一面を知った吾妻。
 吾妻は雨に打たれながら、彼女の歌った歌を口ずさみ、歩いていった。

日向美弥@紅葉国さん依頼SS

 デート


 作ったばかりのワンピースを着て、美弥は軽やかに歩いていた。
 玄ノ丈さん似合うって言ってくれるかな。
 自然と笑みが零れた。
 待ち合わせ場所に着き、キョロキョロと玄ノ丈を探す。
 いた。
 玄ノ丈はいつもより小奇麗な格好で立っていた。肩には花を背負っている。
 髪にはポマードを塗っているらしい。オールバックになっている。
「こんにちは」
 美弥は嬉しそうに玄ノ丈に寄っていった。
 玄ノ丈はちらりと彼女を見た。
 そして微笑んだ。
「似合っているじゃないか。美弥」
 その言葉に美弥は耳まで真っ赤に染める。
 名前、初めて呼んでもらえた。
「ありがとう……」
 美弥はもじもじしているのを見て玄ノ丈は微笑んだ。
「花を持って歩く? それとも、俺に持たせる?」
「持って歩きたいです!」
 玄ノ丈の問いに間髪入れずに答える美弥。
 玄ノ丈は恭しく花束を差し出すのを美弥は大事に受け取った。
 花束を大事に抱えてギューっとする。
 玄ノ丈はそれを見て照れ臭そうに笑うと歩き出した。
 歩調は美弥がついていけるようにゆっくりと。
 美弥もトコトコとついていく。
「マチネでもいいんだが。ま、たまには俺らしくなくても、いいかとは思っている」
「どっちでも、玄ノ丈さんは素敵です」
 美弥は嬉しそうに微笑む。
 玄ノ丈も笑う。
 そして二人並んで歩いた先には、スケート場があった。


/*/


 スケート場の中はひんやりとしている。
「見ているか?それとも一緒に?」
「何度かすべったことはあるから、一緒に」
 美弥がそう答えると玄ノ丈がスケート靴を借りてきた。
「はき方はわかるか?」
 玄ノ丈が笑いながら言うのを美弥は笑いながら答える。
「わかりますよー、さすがに」
 二人並んで靴を履いた後、玄ノ丈が先に立って美弥に手を出した。
 美弥はその手を取って立ち上がる。
 こうして二人はリンクの中に入っていった。

 中に入ると、玄ノ丈は後ろを見ずにすーっと滑っていく。
 手が離れる。
 美弥は慌てて滑るが、玄ノ丈ほど上手くは滑れない。
 その様子を見ながら手を叩いて玄ノ丈はゆっくりと下がっていく。
 美弥はプーっと脹れた。
「どうした?」
 その声が優しい。
 だからこの距離がもどかしい。
 美弥は玄ノ丈ほど上手くは滑れない。
 玄ノ丈は後ろを滑っていく人々を華麗に避けていくのを格好いいなあとは思いつつも、一緒に滑りたいなあと思う。
「手をつないだままでいたいなって…」
 思わず声に出る。
 すると玄ノ丈が足を止める。

 ポム

 美弥は玄ノ丈の胸に飛び込む形となった。
「上出来だ」
 耳元でそう囁かれ、美弥は再度顔を真っ赤に染める。
 玄ノ丈は胸の中にいる美弥の髪を指でよけながら微笑んだ。
「いじわるしたな。じゃ、普通にすべるか?」
「はい! 今度は手を離さないでくださいね」
 美弥のその言葉に玄ノ丈はつーっと滑って離れ、美弥の手を取った。
 少し胸の中を名残惜しく思いつつも、美弥は差し出された手を取って、ゆっくりと滑った。
 二人で手を繋ぎ、ゆっくりと滑る。
 滑りながら、玄ノ丈が美弥の方に寄る。
「にゃ?」
 美弥は玄ノ丈を見上げた。
「?」
「んと、うれしいなって」
 美弥はえへへと笑いながら玄ノ丈を見つめる。
「ああ。近すぎたか?」
「ううん、これくらいで…」
「OK」
 玄ノ丈は美弥を見下ろしながら微笑んだ。
 美弥も笑顔で返す。
「照れるな」
「ええと、でも近い方がうれしいから」
 ポンと、肩が当たる距離にまで近付いた。
「さすがに滑りにくいですよー」
 美弥はくっついたまま笑った。
「それもそうか」
 玄ノ丈はそう言うと美弥の手を離した。
 つーっと優雅に滑って離れていく。
 その玄ノ丈をリンク内の女性は「ほーっ」と見惚れている。
「わーん、極端すぎ」
「ははは」
 美弥は玄ノ丈をよれよれと追いかけるとギューッと抱きついた。
「捕まったな」
「もう…」
 二人はそのまま抱き合った。
 周りからは冷やかしの声も聞こえるが、今は聞かないフリをする事とした。
「何度でもつかまえますもん」
 抱き付いて近付いた玄ノ丈の耳元で美弥は囁く。
「いい度胸だ」
「誰かさんのおかげで」
 二人はくすくす笑いながら離れた。
 玄ノ丈は軽く美弥の頭を叩いた。
「飯でもどうだ」
 美弥の先を玄ノ丈が滑っていく。
「は~い」
 美弥も後を追いかけて滑っていった。


/*/


 二人は腕を組んで歩いていた。
 何を食べる? どこで食べる?
 他愛ない会話をしながら、体を寄せ合い歩く。
 少し冷えた身体に、互いの体温が心地よかった。

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